#0023 『はじめての夜』 「性欲って、いちばん生理的な愛じゃないですか。だから、自分の欲望ごときのために私を慰み者にしてしまったとか、そんな訳のわからないことで自己嫌悪しないでください。……ね?」 個人の意見ですけどねという言葉を前に置かれて飛んできた音波に、脳を直接殴られたような衝撃を受けた。 「違う言い方をすれば、性欲って、いちばん理性でコントロールすることが難しい愛というか、そういうものじゃないですか」 ぴったりと閉めた腿で自分の両手を挟み、肩をすくめ、照れたような困ったような顔を斜めに向けながら、言葉は続く。 「だから私は、その性欲を私にぶつけてきたことをもって、あなたに嫌悪を抱くわけなんかがないんです。むしろ……」 余裕がなくなったように耳を伏せ、顔に紅を差して、それでも少しの間を置いてまっすぐに視線を合わせてきた。 「あなたが私に、そんな性欲をぶつけてきたことが、とても嬉しいんです。それってつまり、私があなたの中で、本能的な意味で、ちゃんと『女』として見られていることの証拠だから……」 「本当に、ごめん……」 「謝らないでください。……私の『はじめての男』は、正しいことにまで罪を認めて謝るような、そんな弱い人じゃないはず。それに、私を一生かけて愛してくれる約束をした上での話なんですから、何も恥ずべき理由は、ないと……思います」 「でも俺……」 「まだ言いますか? ……じゃあ、状況を確認しましょう」 表情に怒りを少し含ませて、じっと目を射抜くように。 「私はあなたに『はじめて』を奪われました。私のそれにどの程度の価値があるかについても認識のズレがある気がしますが、今はそれは議題じゃないので横に置くとします。……とにかく、あなたは私を疵物にしました。私の『女性』としての値打ちを著しく落としました。それは間違いないことです」 まだ耳を伏せたまま、言葉を探しながら。 「でも、償いは、これから私の夫として、一生かけてしてくれるんですよね? というよりも、一生私と添い遂げるという覚悟を誓って、その証として私の身体を疵物にしましたよね? ……違いましたか?」 「スカイ……」 「うん。……あなたのセイウンスカイですよ」 「ごめ……いや、心から愛してる。だから、これから一生、……もうそう長くはないと思うけど、よろしく……な」 肩に頭をぽふんと載せてくる。それがスカイからの返事だった。 |