#0013 『それぞれのカタチ』


「純粋に疑問としてみんなに訊きたいんだけど……」
 キャアキャア騒いでいる五人の輪から少し外れたところで、おずおずとセイウンスカイが挙手をした。
「どうしたのセイちゃん?」
「いや……そんなにみんな、熱烈なキス、いつもしてるの?」
「は?」
 質問に五人の声がハーモニーを奏でる。
「いやいや、セイちゃんが未経験というわけではないんですよ? あの人とだって、キスくらいはするし」
「なんだぁ、セイちゃんも好きなんだべ」
「嫌いなんて言ってないじゃん。求めて貰えるのは、すごく嬉しいし……。でも」
 スペシャルウイークの声にスカイが返す。
「なんていえばいいのかな、気づいたら終わってるというか、して貰っている間の記憶を思い出せないというか。だから私は、ぎゅっと抱きしめてもらったり、頭を撫でてもらったり、キスでも頬とか額にしてもらったり、唇でもちょっと触れる程度に抑えてもらえるくらいでないと、愛されてることを実感できないというか……あー、どう表現すればいいのかなぁ」
「ああ、そういうことね。……スカイさん、まだまだウブねぇ」
「へっぽこ一流のキングには、あんまりそういうこと言われたくなかったんだけどなー。……まあでも今の私は確かにキングよりは経験値が高くはないから、甘んじて受けるけどもさー」
「昔からセイちゃんは自分から仕掛けるのはとても強いのですが、仕掛けられるととても弱かったですからね」
「グラスちゃんまで弄ってくるの? 辛いなあ」
「要するに、熱烈に求められると自分に余裕がなくなって愛され実感が得られないから、まだ少し余裕が残されていてリアルタイムに愛され実感を受けられるソフトタッチがいいってことかな?」
「あー……ツルちゃんそれ。多分それ。めちゃくちゃ強い麻薬受けると飛んじゃうから、ほんのりとふわふわな気持ちになれる程度の弱いのを投与されたいというか」
「まだセイちゃんは強いのを打たれ慣れてないんだ? なまらめんこいべさ!」
「スペちゃんとこは大家族だもんねぇ。その点私は……よっと。……ちょっともう一度露天風呂行ってくるよ。風に当たってクールダウンしてくる」


 一枚の紅葉が湯に揉まれている。十七夜くらいの月が濃い群青の空を焼いている。露天の大きな岩に背を預けながら、空を仰ぐ。
「スカイさん、隣、いいかしら?」
「……あれ、キング? せっかくの同期達との恋バナ、参加しなくていいの?」
「それならエルさんが情熱的に語り始めて、風向きが少し下流に傾く様子があったから、ちょっと離れたのよ。それにあなたとこうやって二人でじっくり話せる機会も、たまにはほしいと思ってね」
「……まぁ、特に断るべき理由はないし、いいよ」
「失礼するわ」
 キングヘイローは身体に巻いていたタオルを巧みに外しながら湯船に身を沈め、別の岩に背を預けた。
「最初にひとつ言わせてちょうだい」
「えー、開始早々お説教?」
「他人の芝生は青く見えるものよ。大家族には大家族の幸せの形がきっとあるでしょうけれど、夫婦がふたりで手を取り合って小さな喫茶店を切り盛りするという幸せはスカイさん達にしかないの。卑屈になってはダメよ」
「……そう見えた?」
「よそはよそ、うちはうち。それともスカイさん、あなたは今、トレーナーから受けている愛の形に不満なの?」
「そういうわけではないけど」
「ならそれでいいじゃない。さっきだってあなた、盛大に赤裸々に、幸せそうな顔で惚気ていたじゃない」
「そ、そりゃあ、まだ新婚ですから?」
「そこよ。まだ結婚生活が始まったばかりの経験浅い二人が、結婚生活三十年超の熟練と同じことをできるわけがないわ。そして逆に、熟練であるからこそ、スカイさん達のように初々しいコミュニケーションがもうできないケースだってあるのよ?」
「……たとえば?」
「そうね。いくら愛していても、さすがにもうあの人と一緒に入浴なんてできないわよ。お喋りだって少なくなって、日によっては、あの人から『おはよう』と『おやすみ』以外の言葉を聞いていないなんてことも。私が世間話なんかしたって、聞こうとすらしてくれないこともあるわ。そこから較べたら、私はあなたたちの今の距離感が羨ましいわ」
「そう……そっか……」
「だからスカイさん、自信を持ちなさい。自分たち夫婦は幸せですって。それが一流夫婦の妻からのアドバイスよ」
「うん……ありがとねキング。……私、もうそろそろ上がろうと思っているんだけど、キングはどうする?」
「あら。それなら私も上がろうかしら」
「……もしかしてなんだけどさ」
「なにかしら?」
「それをこっそりと伝えるために、私のところに?」
「……そ、そんなわけないじゃない。何を言っているのかしら?」
 そのキングの尻尾が一瞬だけピンと張ったのは見たけど……見なかったことにしようと思うセイウンスカイだった。

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