◆ これが育成契約の翌日 ◆

　今日、トレーナー室にて。
「ところで、昨日交わした契約書を見返していて気づいたんだけど」と不意に言われる。
「ここにある小さなドットは、……消し忘れだね？」

　まるで足下の地面が崩れたような落下感を覚え眼前が暗くなった。あんなに、あんなに見直したはずなのに、こんなところにドットなんかが……。

「作り直してきます」と言った声が自分の声ではなかった。それくらい掠れていた。

　でも、そしたら。

「前回は勢いで署名したけど、作り直した書類に僕が署名しないという可能性は、想定しないのかい？　人の心くらいあてにできないものなんてないんだよ？」と。

　それを聞いて、身体中の血がぐらぐら沸騰して、ソファにへたり込んでしまって。涙も浮いていたかもしれない。

　そのとき、頭にポンと手が乗せられた。
「書類の効力には何も影響はない。だからこんな、問題にならないような失敗まで、いちいち気にしなくて良いんだよ？」……って。